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耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座

耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座は、2022年4月に旧「耳鼻咽喉科学講座」と旧「頭頸部外科学科」が統合され誕生しました。
当講座の講義では、臨床医学全般の中における当講座の位置付けと他科との関連性を解説しながら、耳鼻咽喉科学および関連領域の基礎知識を学んでいきます。臨床実習では解剖の理解に重点を置き、形態から耳鼻咽喉科領域の臓器の機能を理解し、機能の理解から病態の把握にいたるプロセスを学びます。
また、頭頸部外科学および関連領域の基礎知識と実技を学びます。臨床における頭頸部外科の役割を理解し、疾患の治療のみならず、症例の治療後のリハビリテーションや社会復帰を含めた様々な問題を解決する素養を身につけることを目標に掲げます。そして、授業を通して医学研究者、医学教育者、臨床医となるための将来への基盤を形成していきます。

講座?教室からひとこと

志賀清人 教授

耳鼻咽喉科では聞く、話すという日常生活のコミュニケーションには欠かせない聴覚、音声言語機能を扱っており、これらの機能障害をきたす疾患に対して内科的、外科的、リハビリテーション的医療など多様な治療を行っています。さらに嗅覚、味覚、平衡覚など様々な感覚器も診療対象としており、これらの機能障害を改善するための診療も臨床の大きな柱になります。当講座では聴覚医学の研究と中耳疾患の聴力再建手術、人工聴覚器手術、鼻副鼻腔疾患の内視鏡手術や頭蓋底外科手術に力を入れていますが、地域が求める幅広い耳鼻咽喉科疾患に対応できる臨床医の育成にも力を入れています。
また、頭頸部外科では耳鼻咽喉科領域の悪性腫瘍(喉頭癌、舌癌、咽頭癌、上顎癌、唾液腺癌、甲状腺癌など)を中心とした腫瘍の診断?治療を扱っており、耳鼻咽喉科領域の様々な機能(咀嚼?嚥下、呼吸?発声?構語、味覚や嗅覚など感覚器としての機能)を維持しながら治療を完結させるという使命を担っています。治療としては外科治療のみではなく、化学療法や放射線治療も症例が増加しており、治療後の嚥下障害に対するリハビリテーション医療など多様な治療を行っています。また、最近では嚥下障害患者や嚥下性肺炎に対する外科治療も増加しています。そのため頭頸部腫瘍の外科治療のみではなく、幅広い状況に対応できる臨床医の育成に力を入れています。

講座?教室の基本理念

耳鼻咽喉科は聴覚、平衡覚、嗅覚、味覚など人間のもつ基本的な感覚の中でも極めて重要な分野を受けもち、また同時に音声?言語機能、呼吸機能、嚥下機能などの広範囲な領域を含む学問であります。このような生活の質に大きく影響する領域の機能障害の原因を追求し、診断、予防、治療に貢献する診療と研究を行うことを教室の基本理念としております。
また、頭頸部外科は耳鼻咽喉科の領域の中でも腫瘍を対象とした外科治療を中心に感染症や外傷なども扱う幅が広い外科です。最近では頭頸部癌の臓器?機能温存を目的に化学放射線治療を行うことも多く、腫瘍内科や放射線治療科との連携も必須です。頭頸部の領域は上部消化管としての機能(咀嚼?嚥下)、上気道としての機能(呼吸?発声?構語)感覚器としての機能(聴覚、平衡覚、嗅覚、味覚)など人間の機能の中でも極めて重要な分野を受けもっています。頭頸部外科の患者さんの治療にはこのような領域の機能障害を最低限にとどめるような治療計画が必要であり、診断、予防、治療に貢献する研究を行うことを基本理念としております。

主な研究内容および診療内容

【耳鼻咽喉科領域】
耳鼻咽喉科領域のうち診療においては全分野にわたります。研究については聴覚生理(難聴?耳鳴?補聴器?人工聴覚器?聴覚スクリーニング等)に重点をおき、小児難聴や難聴遺伝子、中耳病態生理など、臨床と密接に結びついた研究を行なっています。

  1. 臨床聴覚:難聴?耳鳴の診断および治療については岩手県のみではなく、秋田県、青森県の一部を含めて、各関連病院と連携をとりながら診療を行っています。なかでも高度感音難聴の患者様につきましては人工内耳手術を行っております。人工内耳手術は東北地方では最も豊富な経験を有しており、最近では1歳前後の小児例も数多く手掛けております。人工内耳では術後のリハビリも極めて重要ですが、より早く社会復帰に近付けるように努力し、アフターケア等も欠かさず行っています。最近では外耳道閉鎖などの治療困難な伝音難聴に対する新たな人工聴覚器である人工中耳や骨導インプラントの手術も行っています。
    研究面では、耳音響放射やワイドバンドティンパノメトリ、補聴器の適性検査、音響分析を含めた補聴器の特性、突発性難聴の予後因子の検討、高度難聴者の質的診断として聴性定常反応、小児難聴の遺伝子診断など多岐に渡っております。さらに、最近では放射線科と共同で超高磁場MRI(3テスラおよび7テスラMRI)を用いた聴覚器の微細構造の画像表現化をめざした研究や、難聴者が音をどのように理解しているのかを調べるための大脳における音処理機構の研究も行っています。
  2. 中耳病態生理:慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎、耳硬化症、中耳奇形、外傷性耳小骨離断など中耳疾患の診断と治療について画像診断を交えて研究しております。放射線科との協力のもとにCT画像を様々な角度から再構築し、立体ヴァーチャル画像を新たに作成した上で手術に望み、術中所見との対比、術後成績を左右する因子などについて研究しています。最近では従来の高分解能CTを大きく上回る解像度を持つCTを用いた研究も行っています。耳管開放症を中心とした耳管機能障害については、耳管開放症の研究を専門とする池田怜吉准教授を中心とするスタッフが、患者の診断から治療までを担当し、臨床研究を進めています。
  3. 鼻科領域:鼻内視鏡導入に伴い、副鼻腔炎の治療はすべて内視鏡下にて行っています。ナビゲーションシステムを用いて、常に安全にまた適切に手術が行われるよう万全の対策を図るよう努力しております。内反性乳頭腫や神経鞘腫、若年性血管線維腫など、鼻副鼻腔から翼口蓋窩、頭蓋底の良性腫瘍に対しても、鼻内から内視鏡手術を行っています。
  4. 咽喉頭領域:睡眠時無呼吸症候群の外科的治療も行うようになっております。嚥下障害や音声障害に対しても、嚥下機能評価や音声分析をおこなっており、適応のある症例に対しては外科的治療も行っています。

【頭頸部外科領域】
頭頸部外科で扱う腫瘍は咽頭癌(上咽頭?中咽頭?下咽頭)口腔癌(舌癌?口腔底癌など)、喉頭癌,外耳道癌、鼻副鼻腔癌、唾液腺癌(耳下腺?顎下腺?舌下腺)、甲状腺癌、原発不明癌、副咽頭間隙腫瘍とくに頸動脈小体腫瘍など全てを扱っています。研究についてはこれら臨床例で得られた実績や情報をもとに臨床研究を展開するとともに種々の基礎研究にも取り組んでいます。
また、臨床研究ではJCOGの頭頸部グループの参加施設としてJCOG1912やJCOG1212、JCOG1601の症例登録を行っています。JCOG1212は上顎癌進行例に対するCDDPの急速動注療法と放射線治療の併用療法についての研究であり、全国でも頭頸部動注が可能なIVR医が施設内にいないとできない研究で、本学放射線診断科?放射線治療科との協力のもと遂行中です。

  1. 頭頸部癌頸部リンパ節転移の診断と治療:頭頸部超音波研究会の一員としていくつかの多施設研究が進行中です。本学に事務局をおく臨床研究としては「日本頭頸部造影超音波研究会JHNCURG」(研究代表者:志賀清人)を実施主体にする「頭頸部癌患者の転移リンパ節を対象とした造影超音波の有用性についての検索」を遂行中です。頸部リンパ節転移については新しく開発した画像解析ソフトを用いて、造影超音波で得られた画像と病理組織学的所見、特に癌の浸潤様式や血管分布との比較により患者の臨床像の予想が可能かどうかの検討を行っています。また、頭頸部癌患者の化学放射線治療の効果判定への応用についても検討中です。
    頸動脈小体腫瘍の診断と治療:当科では全国でも1、2を争う頸動脈小体腫瘍の手術例を保持しており、患者の同意を得てSDH遺伝子ファミリーなどの遺伝子変異の検索を行っています。手術例では術前栄養動脈塞栓療法の工夫と、手術操作の工夫により手術時間2時間前後、出血量は10ml前後で摘出を可能にしています。志賀清人教授を研究代表者として日本頸動脈小体腫瘍研究会JCBTRGを組織し、現在多施設共同研究「頸動脈小体腫瘍の全国調査JCBTRG-1」「頸動脈小体腫瘍症例の遺伝子変異の検索全国調査JCBTRG-2」が進行中です。
  2. 頭頸部腫瘍の治療:進行例では形成外科と連携をとりながら、術後の臓器?機能温存を十分に検討した上で再建術を含めた根治手術を行っております。また、咽頭癌を中心に化学放射線治療の有効性が示されており、放射線治療科と連携し多剤併用化学療法を組み合わせた同時併用化学放射線治療を行っています。主に上顎扁平上皮癌に対し、症例に応じて放射線診断科と連携して、超選択的動注化学療法を併用した放射線治療も行っています。早期の喉頭癌?下咽頭癌症例で音声機能の保存が可能な例には内視鏡治療(TOVS)を含めた喉頭部分切除、下咽頭部分切除術など術後のQOLを考慮した術式を選択しています。術後の嚥下訓練、発声練習を言語療法士および看護チームと密接に相談しながら、より良い社会復帰に向けて努力するよう指導しております。
    頭頸部癌に対しても種々の免疫チェックポイント阻害剤の適応が認可されつつあり、当科でも治験の段階から頭頸部癌患者の治療に取り組んでいます。また、新たな治療薬の開発に向け、分子標的薬やホルモン製剤を使った治験や診療に参加する予定です。楽天メディカルが開発したアルミノックスプラットフォーム、いわゆる光免疫療法も適応症例に実施可能です。
  3. 嚥下障害患者の治療:嚥下障害患者については嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査による正確な診断を行い、嚥下障害の外科治療の適応と考えられる症例には喉頭挙上術や輪状咽頭筋切除術などの嚥下改善手術を、誤嚥が高度で気管食道分離術の適応と考えられる症例には声門閉鎖術などの誤嚥防止手術を行っております。音声障害患者の治療:反回神経麻痺症例に対して甲状軟骨形成術I型や披裂軟骨内転術の手術を行うなど、音声改善手術に取り組んでおります。
  4. 頭頸部腫瘍の基礎的研究:細菌ベクターを用いた頭頸部悪性腫瘍の遺伝子治療についての基礎的研究を推進しています。また、転移リンパ節への抗がん剤治療を目指し超音波を用いたlymphatic drug delivery system(LDDS)を開発中です。その一環としてICGを用いた頭部転移リンパ節からのリンパ流の測定実験や、リンパ節内圧測定による転移リンパ節の早期診断についての研究を行っています。HPVと頭頸部癌の関連について多施設共同研究を行っています。頭頸部を含めた上気道?消化管におけるアルコール発癌についての研究を行っています。