衛生学公衆衛生学講座
21世紀は「予防」の時代です。単に疾病の原因や危険因子をコントロールするだけでなく、疾病リスクを高める社会的、経済的、文化的な要因の発生と定着を防ぐための環境づくりも重要です。また遺伝要因を考慮した一人ひとりに適した予防方法を確立することも求められています。衛生学公衆衛生学講座では、「予防」をキーワードに、地域や職域の人々が健康で長寿を享受するためにはどのようにすればよいのかを明らかにする研究を行っています。
講座?教室からひとこと
当講座では、岩手県内の自治体や関係機関のご理解とご協力をいただきながら、臨床各科と共同して、岩手県をフィールドとした複数のコホート研究(*)を実施しています。東日本大震災?大津波の被災地域住民を対象としたコホート研究(RIAS研究)では、2011~2020年度まで厚生労働省の指定研究として被災者の健康診査を毎年実施し、被災に伴う健康被害の推移とその関連要因を明らかにし、情報発信をしています。国立がん研究センターとの共同研究(JPHC-NEXT研究)では、環境要因と遺伝要因の両面から生活習慣病の寄与因子の解明にも努めています。また、県北市町村を対象とした大規模コホート研究(岩手県北地域コホート研究)では、岩手県における脳血管疾患、心筋梗塞、心不全等の循環器疾患や高齢者における要介護状態発生の危険因子を解析しています。さらに、本学いわて東北メディカル?メガバンク機構が実施するゲノムコホート研究(東北メディカル?メガバンク計画地域住民コホート調査)の運営や解析にも参画しています。最近では、レセプトデータ等のリアルワールドデータを用いた研究や、RIAS研究において高齢者のフレイル?サルコペニア対策をテーマとした研究も開始しています。
*コホート研究
コホートとは、大規模な人間集団のことを示す学術用語です。コホート研究とは、コホートを長期に追跡し、病気や健康課題の原因を解析する研究デザインです。
講座?教室の基本理念
当講座五代目教授の坂田清美先生は「温故創新」を当講座の基本理念として掲げておられました。温故創新は、創成期からの日本の疫学研究の第一人者でいらした重松逸造先生の造語で、「歴史に学んで新しいパラダイムを開く」という意味です。歴代教授(初代 園田釈雄先生、二代 植松稔先生、三代 角田文男先生、四代 岡山明先生、五代 坂田清美先生)が築いてこられた研究基盤を継承し、新たなパラダイムを創造するため、次に掲げる2つを当講座の教育、研究における基本理念とします。
〇健康増進と予防医学を実践できる医師を育成する。
衛生学および公衆衛生学領域は、医師国家試験における出題の約10数%を占めます。このことは単に試験対策というだけでなく、医師にとって極めて重要な学問領域であることを示しています。医学情報を正しく読み解き、健康増進と予防医学を実践できる医師を育成するため、当講座では医学部学生教育として、衛生学および公衆衛生学の学問的背景である「疫学」、衛生学領域である「環境医学」、そして公衆衛生学領域の実践として「予防医学」および高次臨床実習「公衆衛生学」を担当します。
〇疫学研究を通じて公衆衛生の向上および増進に貢献する。
当講座では疫学(*)を研究活動の基盤とします。研究活動を通じて、岩手県民はもとより、日本国民、延いては人類の公衆衛生の向上および増進に貢献します。前向きコホート研究やリアルワールドデータを用いた研究等を推進し、循環器疾患や要介護、大規模自然災害に伴う健康被害の予防に資するエビデンスを創出します。また、公衆衛生専門家、疫学専門家、社会医学系専門医、産業医等の資格取得を支援し、衛生学、公衆衛生学領域のエキスパートを育成します。
*疫学
疫学は、人間集団における健康課題の頻度や分布を調べ、その原因を明らかにし、得られた知見を現実社会に応用する学問体系です。疫学で取り扱う健康課題は、単に疾病に限らず、生活習慣や生活環境等、人間活動の結果として生じる、あらゆる健康に関わる事象に及びます。
主な研究内容および診療内容
- 岩手県北地域におけるコホート研究(岩手県北地域コホート研究)
- 東日本大震災被災者のコホート研究(RIAS研究)
- 国立がん研究センターによる次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT Study)
- 岩手県医療等ビックデータ利活用に向けた研究
- 地域在住高齢者のフレイル予防に関する研究
情報公開
- 東日本大震災健康調査にご協力頂いている方々へ
- 岩手県における東日本大震災被災者の支援を目的とした大規模コホート研究
- 岩手県北地域における特に女性に着目した多目的コホート
- 岩手県における新型コロナウイルス感染症の予防行動及び罹患後症状に関する研究