令和4年度卒業式 学長式辞
岩手医科大学医学部?歯学部?薬学部?看護学部の296名の卒業生諸君、そして大学院博士課程?修士課程を修了し学位を授与された31名の諸君、本日は誠におめでとうございます。また、諸君のご父兄の皆様、ご親族の皆様方は、今日この日を指折り数えてお待ちいただいたと思います。そのお喜びはいかばかりかと推察いたします。誠におめでとうございます。
ご父兄の皆様方、ご親族の皆様方は、すでにご承知おきのことと思いますが、新型コロナウイルスが極めて蔓延し、第8波がようやく収束に向かいつつあるという状況ですので、安全を期して今回はウェブでご視聴いただくこととなりました。
まず、卒業生諸君に申し上げます。諸君はこの約3年3カ月、コロナ禍の中でたいへん苦労してこられました。本学としましては、できうる限り諸君の勉学に影響を及ぼさないようにと対面の講義を中心に行い、実習もできる限り行ってきましたが、徐々にパンデミックが激しくなり、いずれウェブで講義をするのも止むを得ざるという状況もありました。代替え実習を行うこともありました。このような苦難の中で、諸君は本当によく耐え抜き、頑張っていただいたと思います。
私は本学の危機対策本部の本部長を務めており、諸君には「何々に注意してください」「何々に気をつけてください」といった注意事項を含めて、いろいろな行動制限などをお願いしてきました。その意味では常に忸怩たる思いがあったのですが、諸君はそれを耐え抜いて今日のこの日を迎えられました。諸君の輝く顔を見ていると、救われたという気持ちと同時に「本当に良かった」という感激の気持ちでいっぱいです。
諸君が卒業された岩手医科大学は、今年4月20日で創立126年を迎えます。現在125年で、非常に長い歴史をつないできた大学です。諸君はこの歴史の中でいろいろなことを学んだことと思います。本学を創設された三田俊次郎先生は明治30年、北東北の医療の貧困を憂いて、私財を投じて私立岩手病院と医学講習所(4年後には岩手医学校と名前を変更)をつくられました。
三田先生が素晴らしいのは、もうひとつあります。医者だけで医療は成立しないと考えられたことです。三田先生は医学講習所のみならず、現在の助産師?看護師の学校である産婆?看護婦の学校を併せてつくられたのです。これによって、まさに東北?北海道初のチーム医療の原点がスタートしました。その後、いろいろな経緯を経て、本学は医学部を中心とした大学としてしばらく運営してきましたが、昭和40年、東北?北海道で初となる歯学部を設立しました。そして、平成19年に薬学部、平成29年には悲願であった看護学部を設立し、医?歯?薬?看の4学部から成る医療系総合大学として再スタートし、現在に至っています。
諸君はこの岩手医科大学で学び、その中で「医療人たる前に誠の人間たれ」ということを骨の髄に染み込むまで聞かされてきたことと思います。「誠の人間」というのは非常に難しい言葉です。人間の成長の段階に応じて変わってきますが、その段階、段階で、全人格を医療にぶつけろということだろうと、私は感じています。諸君は本日から医療人になります。医療人である諸君を訪ねてこられる患者さんとそのご家族は、体を病み、それゆえに心を痛めて来られる方々です。諸君はその方々の病み、痛みを理解して寄り添ってあげる、そういう心優しい医療人になってください。私は諸君にしばしば、そのことを話してきました。それがまさに「医療人たる前に誠の人間たれ」につながることだろうと考えています。そして、諸君が本学でいろいろなことを学び、これからさらに大きな飛躍を遂げていただくことを期待します。
学位を取得された諸君に申し上げます。諸君は、医学?医療の真理を追究し、この領域における指導者となるべく、この道に進まれました。この道に入って、まずはどの学科を選ぶのか、どの専攻科を選ぶのか、どの研究テーマを行うのか、非常に迷った末に決断したことと思います。さらにその先には、実際に研究手法を習得し、実際に研究を行い、得られた成果を論文として発表し、それが認められて今日の栄誉があるわけです。その非常に長いプロセスを経て、諸君は目的を達成されました。いろいろなことがあったと思いますが、その過程で諸君はおそらく、こうしたら上手くいくのではないかという、「仕留めた」感じを得られたことがあったのではないかと思います。今後、諸君が医療人としてさらに飛躍するために、その仕留めたという感じを忘れず、生かしていただきたいと思います。同時に、そのことを諸君の後輩に伝えていただきたい。それが諸君の指導者としての道だと思います。
卒業生と学位を取られた諸君、すべての方々に申し上げます。諸君は、今日に至るまでいろいろな努力、難儀を押してここに至られました。諸君は個人として一生懸命努力されましたが、それ以上に影になり日向になり諸君を支えてくださったご父兄、ご親族の皆様がおられることをもう一度思い返し、感謝の念を持っていただきたいと思います。そして、諸君を指導してくださった教職員の皆さん、先輩?後輩の皆さんに対しても感謝の気持ちを抱いていただきたいと思います。
卒業生諸君は本学に入学したときに、ぼんやりとでも「こういう医療人になりたい」という夢を抱いていたと思います。その夢をまさに今日、実現されました。学位を取得された諸君は、学問の真理の追究と指導者になるという夢を実現されました。それぞれが第一弾、第二弾の夢を実現されたわけです。諸君にはこれから第三弾、第四弾、第五弾という夢の続きをぜひ見ていただきたいと願っています。諸君の心の中にある、ひとつの花が今日、花咲きました。これからその花一つひとつをつないで、より大輪の花として咲かせていただきたい。諸君が医療人として存在することを世に問う、そういう人になっていただきたいと願っています。
諸君の今後の活躍を祈念してエールを送り、式辞といたします。本日は誠におめでとうございました。
(令和5年3月10日 岩手県民会館)
岩手医科大学 学長 祖父江 憲治